歯とお口の機能 お子さんの成長を見守る

この齢になって、歯の大切さを実感しています。一生使う歯は、治療より予防が大切です。そこで、知人の歯医者さんに「歯の大切さ」について書いていただきました。

お子さんの成長を見守る(歯〜お口の機能〜)

歯科医:石部 由美

「歯が大切」ということを聞いたことのない方はいらっしゃらないと思います。では、なぜ大切か?失うと2度と同じ歯は生えてこないから?食べ物が食べられなくなるから?どれも正解ですが大切なことは歯が生えているお口の機能(口腔機能)について、特に幼児期のお子さんを持つお母さん、お父さんがより多くのことを知っていることではないかと常々思います。

そもそも歯が萌えているお口の機能とは咀嚼(かむこと)、嚥下(のみこむこと)といった食事に関係する機能、発熱や運動時、深呼吸などの口を使った呼吸に関する機能、また話すといった構音、発音の機能と人が生きていく上で重要な機能が多くあります。

子どもの口腔機能は0〜1歳半の基本的機能獲得期に大きく発達します。そして乳歯が生えそろう3歳ごろから、永久歯の生えかわりが終了する15歳頃までのさまざまな食習慣や言語を習得していく時期に習熟していきます。この口腔機能を子どもの発達期に出来るだけ上げておくことは、その子どもが高齢になり口腔機能が低下する時期になってもより高い位置から下がるため問題が現れる時期を遅らせ日常生活への問題を回避できます。つまり口腔機能の適切な発達とは、人が高齢になったときに元気に過ごすための基盤にもなります。

咀嚼(かむこと)は離乳食完了期から幼児食期(第一乳臼歯、第二乳臼歯といった奥歯が生えそろってくる頃…通常2〜3歳)に、もぐもぐ期かみかみ期に続いて咀嚼運動へとつながっていきます。それに対して嚥下(のみこむこと)は胎生8週ごろから哺乳反射(乳首を探し吸おうとする反射)が始まり、胎生32週ごろには乳首を吸うための「吸啜」と吸ったものを飲み込む「嚥下」の調和がとれるようになります。

赤ちゃんは生まれるまでの数か月間、お母さんのお腹の中で指しゃぶりや羊水を飲み込んだりしながらお乳を飲むための練習をしています。つまり咀嚼(かむこと)は生まれてから獲得していく機能であり、歯が生え始めてから適切な離乳食ステップをふみながら正しい咀嚼運動を練習していく必要があります。

歯の萌出は6〜7か月頃、前歯が生え始めそこから順に2歳頃までには奥歯が1本、3歳頃までには奥歯が2本生えそろい乳歯列の完成となります。歯が生え始めるとその周囲に骨ができ顎骨自体が大きく成長します。奥歯が生えるとそれまで舌や歯ぐきで押しつぶしてのみこんでいたものが咀嚼されはじめます。咀嚼するためには咀嚼筋(側頭筋や咬筋など)という顎の骨の周囲の筋肉の運動が必要となり、咀嚼することで筋機能は発達して顎の骨のさらなる発達へとつながっていきます。また咀嚼の開始により顎関節も深く強固な構造に変化していきます。顎骨は成長期に大きく成長していくためこの時期にかむこと(かめること)は単に食事をするという機能だけにとどまらず、顎の骨の正常な発達・成長に影響を及ぼします。

乳歯だから、生えかわる歯だから、虫歯になっていいわけでも早くに抜けてしまってもいいわけでもありません。その後に続く永久歯は乳歯の根っこを道しるべに生えてきます。道しるべを早くに失った永久歯は本来生えるべき場所と違う場所に生えてきたり、お隣さんのいなくなった乳歯は抜かれた歯の空隙に倒れこんできたりと問題が発生しやすくなります。

正しく咀嚼できるようにお子さんのお口の中の変化を歯みがきのときにみてあげてください。