愛着・分離・個の確立

 子どもというのは、独立し学ぶ能力がある、とマリア・モンテッソーリは繰り返し言っています。
 人間の発達の方向性は、常に自立の獲得へ進んで行きます。自立というのは、一人で他人との関わり合いを持たずにやるというのではありません。自立しているということは、自らの足で立てば立つほど、社会に溶け込むことができるということです。人生というのは、自立の過程そのものであり、何かに愛着し、それから分離していく過程なのです。次のものを得るために、また愛着と分離を繰り返す。それは、生命そのものの波長です。
 より良い分離をするためには、その前に愛着していた、という事実が必要です。愛着という状態が良いほど、きちんと分離ができます。例えば、赤ん坊は、何かから離れることにより自立の道を行きます。子宮の中では母親が消化と吸収をやっていましたが、赤ん坊は母親から分離するにより消化と吸収を獲得します。又、抱くことも、24時間抱いているわけにはいきません。子どもの運動を阻害してしまいます。分離の後にはもっと楽しいものがあることを経験より知っていかなければなりません。つまり、人は分離の度に新しい能力を獲得し、自立していくのです。幼稚園や保育園の後は、いっそう母親から別れ、小学校へ進みます。そして、他者との大きな環境の中に入って行くのです。
 心理的に分離がうまくいかなかった場合、前のものに戻ろうとします。それが退行現象です。分離をより良く行うための心理的条件があります。それは、エネルギーの波動を尊重することです。例えば、新生児は母親の胸に愛着すべきなのを、させないのは自然エネルギーに反します。
 前に進むためには常に精神的な支えを必要とします。分離をうまく果たすためには、精神的2本の足がないと行けません。又、分離のためには、次の場所が今いる場所と同じように楽しいものだという信頼感が必要です。
 母親(それに代わる人)が、子供が必要としているときに直ぐ要求が満たされるという信頼が、環境への信頼になります。生後二カ月間は共生期間です。そばにいる母親と心地良い信頼関係が保てます。それによって、人生とはすばらしいものだという信頼が育ち、人生とは楽しいものだと楽観的にとらえられます。そうすれば、いかに困難な状況においても、何かの解決策を見つけることができます。又、9カ月で自分への信頼ができます。自由な動きを通して様々な経験(ずり這や這這い)をし、動きの自由を獲得するということによって、一人で出来るのだという自我が芽生えてきます。

 生後2カ月までに形成される「環境への信頼」と生後9カ月までに形成にされる「自分自身への信頼」という2本の足は、一つ欠けても、遠くまで歩くことができません。又、人生というのは、愛着と分離の大きな生命の波動の中で繰り返されることを知っておいてほしいと思います。