運動の発達について

このページでは、乳児の運動について考えたいと思います。もちろん、発達に個人差や多少前後することはありますが、運動の発達の段階は世界中の子ども達に同様に見られるので、参考にしていただきたいと思います。

運動の発達は二つのタイプ、粗大運動微細運動に分けられます。

粗大運動とは、

胴体と四肢の大きな筋肉の供応を意味し、これらの運動は空間の中で動くための姿勢――平衡、バランス、移動を意味します。粗大運動は進化の過程をたどります。

微細運動とは、

腕と手を使った運動になります。それにはいくつかの機能があります。

  1. 腕を何かに届かせる
  2. 物を把握する
  3. 物を離す 

人間だけが持つ最新の進化の形ということになります。

粗大運動

月齢獲得される運動
誕生身体を伸ばしたり、ねじったりする
目の筋肉のコントロール
頭を持ち上げる
2-3肩と頭を持ち上げる
3-4寝返り―うつ伏せから仰向けに
5-6支えられて座る
6-7寝返り―仰向けからうつ伏せに
四つん這い(ハイハイ)
10つかまり立ち
11伝え歩き
12一人で立つ
12-14歩行

微細運動

月齢獲得される運動
手かざし(反射把握の観察)…自分の手をかざして見る
3-6意図的把握
熊の手把握…熊手でかき寄せる様にしてつかむ
手の平把握…主に手の平でつかむ
握る
サルの手把握…親指が余り利かず、主に4本の指でつかむ
8-9親指と他の4本指の相対関係
10-12各指が独立して動くようになる(指との協応)
意図的に腕を伸ばす(腕との協応)
空間にぴったりあわせる(目と手の協応)
12親指と相対する2本指(3本指)でつまむ
指差し(指との協応)
大きなものを両腕で抱える(腕との供応)
片手に何かを持ち、もう片方では別の作業をする(腕との協応)
142つの腕が同じ動きをする(腕との協応)
14-16小さいスペースに小さいものを入れる(目と手の協応)
16親指の協応(腕との協応)
18親指―人差し指でつまむ
24つまむ―小さな物
手と腕が違う動きをする(腕との協応)
とても小さなスペースに大変小さいものを入れる(目と手の協応)

運動の発達について知りたい方が多いようなので、もう少し詳しく書いてみたいと思います。

随意運動の発達

ミエリン(myelin)化について

 細胞から伸びている紐のようなもの。ニューロンは神経細胞1個。この中を情報が伝わっていく。ニューロンは、環境から体の中へ、体の中から環境へメッセージを運ぶものである。

 ニューロンというのは、生まれたときから持っている。髪の毛、皮膚のようにあとから増殖するものではない。神経細胞と同じように核を持っていて、紐が付いている。短い木のような枝で、樹状突起を持っている。この長い紐のようなものを「軸索(axson)」という。その軸索は、電気のコードのようなもので、周りにゴムのようなものが付いていないと電気が放出されてしまう。子どもが生まれた時には何も周りがコーティングしていないので情報が流れ出てしまう状況がおきている。だったら人間の子どもはなぜコーティングができるまで母親のお腹の中にいないのか?

 人間は大きな脳を持っているからその時期に出てこなければならない。人間は大きな脳を支えるための大きな頭がいる。産道を出れるくらいの大きさで出てこないといけない。自然の流れとして、どちらを選択するか。つまり、頭の大きさを優先するか、コーティングなのかということである。

 随意運動をするために、情報が行わなければならない。そのために、この軸策にミエリンということをコーティングすることになる。ミエリンとは、物質的には脂肪のようなものである。ミエリンが軸索をコーティングすることにより情報が伝わり、いろいろな運動ができるようになる。

 子どもが生れた時すでにミエリン化が起こっている部分もある。子供は3つの基本的機能をコントロールすることができる。

(1) 泣くこと…必要があると泣き、それを通して心を伝えることができる。
(2) 吸うこと…母乳を吸うこと。
(3) 飲み込むこと…吸った母乳を飲み込むことにより、生命を維持することができる。

 つまり、3つのことが生れた時すでにミエリン化していることになる。

 そして、感覚的ニューロンについても、生まれたときに イメージを認識する・味覚・聴覚 は、ミエリン化している。随意運動とは異なる。

a) 粗大運動 (平衡/移動)

 運動系が感覚形に比べ時間がかかる。というのは、感覚は外から脳に伝わってくるもので、随時運動は感覚から脳に伝達され、脳から体の各部分に伝達されないといけないからである。

 体の中でミエリンは順番に従ってミエリン化される。まず頭から始まって体の下のほうへ。また、体の中心から始まって外側に発達していく。このミエリン化は、子どもが生まれてから始まり、1歳を過ぎた頃に完成する。このミエリン化が進むことにより、子どもの随意運動はコントロールされてくる。このミエリン化も、内なる教師によりスケジュールを追ってやる作用があり、6ヶ月になるとこういうこと、9ヶ月になるとこういうこと、といったふうに時間的順番を持っている。

 平衡感覚が進化の過程をたどる話をしたが、粗大運動も進化の過程をたどる。

子どもが生れた時、余り動けない。(不随意運動という)
1ヶ月くらい経つと、上のほうから始まる。目――焦点が当てられるようになってくる。
2ヶ月くらい経つと、頭を持ち上げる。首くらいまでミエリン化が進む。
2‐3ヶ月  頭のところまで持ち上げられるようになる。
3‐4ヶ月  寝返り、ねじまげられるようになる。お腹のあたりまでミエリン化が進んでいる。

 運動を促すためには、筋肉を使う機会を与えないといけない。つまり、筋肉を強くしないといけない。ですから、モンテッソーリの環境の中では、赤ん坊は床の上に置き、適切な服を着せ、運動を促している。

〔3ヶ月の子ども〕
 感覚の状況を見て、家にある揺れる椅子はよくないことに気付いた。
赤ん坊は、必ず一日一回は腹ばいにしないといけない。(子ども次第だが、嫌がる子供にはおもちゃを与えたりして、できるだけ長くしてやる。指して、次第に長くなるようにする。) できない時期にも腹ばいにする。

 子供の中には、腹ばいにすると嫌がる子どもがいる。理由は①周りがよく見れない。②保つことは結構努力が要る。しかし、腹ばいは非常に重要である。お座りをするための背筋を鍛えるという意味でも大変重要である。

〔6-7か月の子ども〕
 赤ん坊が座っている状況。子どもは誰かの支えによってお座りをしている。
あまり長くなってはいけない、短めに抑えておくこと。又、床の上に腹ばいにする(重要)。それは、這い這いの練習になる。

 生後間もなく~6ヶ月は、いろいろなところを動かそうとしているが、まだ動きはゆっくりである。それは、進化の過程からいうと爬虫類の時期になる。お腹を床に付けたような状況で動いている。腕のところまでミエリン化が進んでいる。ミエリン化は上から下に進んでいく。それと同時に、お腹から腕のほうに進んでいく。

 突然死を避けるために、上向きで寝かせたほうがよいという世界的な傾向があるが、腹這いのほうが若干随意運動が早く始まる傾向がある。

 子どもは生まれた時~6ヶ月間、動きはゆっくりである。その間に筋肉を発達させ、ミエリン化が “上→下”、“中心→外” に広がっていく。そして、6ヶ月になると急に小脳の部分の発達が著しくなり、運動や筋肉が発達する。それが6-14ヶ月くらいまで続く。

 6・7ヶ月くらいになると、上手にお座りができるようになり、お腹のあたりまでミエリン化が進んだことになる。そして、次に這い這いに進む。つかまり立ちと這い這いは、順番が逆になることもある。

〔8-9ヶ月の子ども〕
 三角の教具が付いていて、それに子どもがつかまって立つ器具があるが、完全に立てるわけではない。

 9ヶ月になると這うことができるようになる。ようやく哺乳類に近づいたことになる。“這う”は、動きの中でも独立したものである。這い這いした後、本当に立てるようになる。そして、つかまり立ちをするようになる。伝い歩きができるようになると、霊長類まで進化が進んだことになる。伝い歩きをするためには、バー(完全に安全であるもの)やスツール(角がないもの)が必要となる。そのうちに、家中を伝い歩くようになる。

 まさしく、這い這い、つかまり立ち、つかまり歩きの時期が、安全を確保しないといけない時期である。

※ カーテンも危なくなる時期である。見直さないといけない。
※ うつ伏せ→仰向け(足で蹴ると簡単にできる) 

仰向け→うつ伏せ  どちらが早いかは子どもによる。

〔11-12ヶ月の子ども〕
 一人で立つ。その瞬間を目撃すると感動する!

〔12-14ヶ月の子ども〕
 歩き始める。

b) 微細運動 (手を使う活動)

 微細運動とは、腕と手を使った運動になる。

 粗大運動は進化の過程をたどるが、これはそれとは関係ない。理由は、微細運動を持っているのは人間のみだからである。最新の進化の形ということになる。

 手の運動について
 赤ん坊は、動いているうちに「自分の手」を発見する。これは、偶然起こることが多い。(ミエリンかが進んでいないので) もう少し経つと、意図的に目の前に持ってきて確認できるようになる。又、大人の手にも興味を持つ。
 いくつかの機能がある。まず、

(1)腕を何かに届かせる
(2)物を把握する
(3)物を離す

(1)は、腕のミエリン化ができるようになると出来る。モビールを吊るしてやる時期に入る。腕の調整はもう少しあとになる。

 新生児は、物を置いてやるとそれをつかむ、握る、をする。握るといっても、色々あり、段階がある。観察のとき、子どもがどうした握り方をしているか観察して下さい。この、握り方は区別がしにくい。医者や精神科の医者で無いとなかなか区別ができない。しかし、いつも観ているうちに判ってくる。

 Ⅰ番初め「かき集め的把握」
熊手というか、4本の指でわざと引き寄せる動き。
 2番目 「手の平で把握」 
5本の指ではなく、全体でつかむ。前の、かき集め的把握が、指の先。これに対し、手のひらに接触させて物をつかむ動作になる。
 3番目 「サルの手把握」 
サルの手と人間の手を比較してみよう。サルの手の親指は、かなり下の方に付いている。この段階は、親指は使うがその他の指が向き合って使われていない。だからといって親指が使われていないというわけではない。しかしながら能動的に他の指に向いていない。物を親指でも持っているように見えるが、実際にはあまり働いていない。

 「把握の洗練」
 ようやく親指が4本の指に向き合ってくる。ちょうどこれが8・9ヶ月である。粗大運動――しっかり自分で座れている状態である。

 赤ん坊はしっかり座れるので自分でつかむことができる。物を置いておけば刺激になる。手の動きができるのは、座っているときに一番効果がある。

 「はさむ形の把握」
 人間にとって重要である。コーヒーカップのつまみ方。小さいものをつまむつかみ方である。

 3-6ヶ月に与えられる玩具は、はさみのような動作をするものがある。つかんで持ち上げるものである。やっているうちに2つの指で掌握できるようになる。

 運動の洗練は、すべて能動的体験により与えられる。これは私たちの責任であるので、整えられた環境の中で提供していかなければならない。

 「物を離す」
 物を離す動作は、生後一年くらいでできるようになる。ずっと離さないのではなく、自分から意図を持って離すことができるということである。例えば、指輪を持っている赤ちゃんがいるとしたら、何か他のものを与えると赤ちゃんはぽっと離す。

 生後一年になると、自分が離したいから離すということになる。しかし、幼い子どもは、離すタイミングが悪い時があり、あたかも物を投げているように見えるときがある。「物を投げてばかりいる。」と思いがちだが、タイミングがとれていないのかもしれないので、注意してやること。物を離すときに、自分が思っているところに離すのは、目と手の連携が取れたときである。

 18ヶ月になると、人が思うより遅いが、いろいろな指をどのように使うか?

 10-12ヶ月にでてくるが、親指が向き合う状態になるので、かなり使えるようになる。また、人差し指のみは、かなり違った方法で使われる。それは、人を指し示すことに使う。

 「親指の協応」
 物を正確に置ける準備段階に入る。

 「腕の協応」
 最大の努力を払う時期である。手のみではなく腕もかかわる。腕を伸ばしてつかむ。
 10-12ヶ月は伝い歩きである。伝い歩きをするためには、離れた状態で歩く。粗大運動とうまくつながっている。
 
 「抱く」
 12ヶ月である。両手が違うことができる。ひとつでもうひとつのこと、他でもうひとつのことができる。

 歩行ができると抱くこともしやすい。歩きながら何かを持ったりして環境の中に積極的に参加していくようになる。

 腕の動きに関しては、
  (1) 二つの腕で同じ動き (2) それぞれが反対の動きができる  がある。
 
 「目と手の協応」
 a、空間にぴったり合わせる。(例えば、パズルなど)
 b、小さいスペースに小さいものを入れる。
 c、とても小さいスペースに大変小さい物を入れる。(例えば、縫い刺しなど)
 
  a → b → c と、進んでいく。