赤ちゃんの言語習得と親の会話量の関係 ~3000万語の格差~

「3000万語の格差」 ダナ・サスキンド著
赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ より
特に大切だと思ったところをご紹介します。

研究結果

生後13か月から36か月(1時間あたりの平均)

専門職についている家庭の子ども487の発語を聞く
労働者層の家庭の子ども301の発語を聞く
生活保護世帯の子ども173の発語を聞く



上の結果を1年間に換算すると違いが明らか

専門職についている家庭の子ども1100万語の発語を聞く
生活保護世帯の子ども300万語の発語を聞く
違いは・・・1年間で800万語


3歳の終わりまでに換算すると約3000万語の違い

3歳の終わりまでに聞く言葉の数

専門職についている家庭の子ども4500万語の発語を聞く
生活保護世帯の子ども1300万語の発語を聞く
違いは・・・3200万語



3歳の時点の子どもの語彙数の違い

専門職についている家庭の子ども1116語
生活保護世帯の子ども525語
違いは・・・591語

・観察当初の8か月間に親が子どもに話した言葉の量は、3歳の時に親が話す言葉の量と相関(比例)しました。

・思考や学びの基礎となる脳の神経細胞のつながりは大部分、生後3年間に起こります。科学的な研究の結果、脳の最適な発達は言葉に依っていることもわかっています。私たちが聞く言葉の数、その言葉がどう言われるかが、脳の発達の決定的な要因です。この時期を逃したら取り戻すことはできませんから、この大切さはいくら強調してもしきれないでしょう。

・関係があったのは言葉の量だけではありません。命令や禁止の言葉が、言葉を習得する子どもの能力を抑えていることがわかったのです。「発達の足を大きく引っ張っていたのは、(子どものやりとりが)親の『ダメ』『ストップ』『それ、やめなさい』で始まった時だった。」

・「子どもが話す量は(家でその子どもが聞いている量と)同じだった」

・もう一つとても大切な特徴は、肯定的なフィードバックです。

質の大切さの証明:信念の格差

「いい子だ」「その通り」対「ダメな子」「間違ってる」
1年間で比べると

肯定的・応援否定的・禁止
専門職についている家庭の子ども16万6000回2万6000回
労働者層の家庭の子ども6万2000回3万6000回
生活保護世帯の子ども2万6000回5万7000回



「いい子だ」「その通り」対「ダメな子」「間違ってる」
4歳の時点で比べると

肯定的・応援否定的・禁止
専門職についている家庭の子ども66万4000回10万4000回
生活保護世帯の子ども10万4000回22万8000回

脳の可塑性

・脳は4歳ごろ、臓器としてはほぼ育ち終えます。

・脳は他の臓器とは違い、生まれた時にはまだできあがっていません。

・生後数年という比較的短い期間に、強靭で、けれども非常に壊れやすい脳の回路がつくられ、人生の到達点すべてに影響します。この過程を決めるのは何でしょうか?基本的には、遺伝、生後初期の経験、そして、一生続く遺伝と体験の相互作用です。良くも悪くも、これだけです。

・脳が十分に発達するために不可欠な社会的栄養の一つは、安定です。発達途上の脳は、外から入ってくるすべての刺激に対して過敏な状態です。「有害な」環境、強いストレスを常に感じるような乳児期の環境が、子どもに内的な「ストレッサー」を生むこともわかっています。(ストレッサーとは、ストレスを引き起こす原因、引き金。)

・脳の成長・発達のかなめとなるのは、やさしく応答的な大人と赤ちゃんとの相互作用なのです。

・ストレス・ホルモンが赤ちゃんの脳に働き、とてもネガティブで、たいていは修正不可能な影響を脳の働きの核の部分に及ぼしてしまいます。その結果は、認知発達や言語発達から見てとれるだけでなく、行動、自己抑制、感情の安定性、社会性の発達、そして、精神的・身体的な健康といったすべての側面に表れます。

・出生から3歳までの間、新しい神経細胞のつながりが700から1000個、赤ちゃんの日々、毎秒ごとに起きているのです。この複雑な神経回路が脳の構造となり、脳の働きすべて、例えば記憶、感情、行動、運動能力、もちろん言葉にも影響します。

 けれども、最初の3年間で爆発的に起きる神経のつながりは、実のところ、多すぎるのです。もし、このつながりがすべて残っていたら、刺激と雑音の負荷が大きすぎて脳は混沌状態になってしまうでしょう。そのため、シナプスのプルーニング(神経細胞のつながりの刈込み)と呼ばれる過程を通じて、賢い若い脳は余分な神経細胞のつながりを切り始めます。弱いつながりや、あまり使われていないつながりを切り捨てつつ、よく使われるつながりは微調整して、機能に特化した脳の領域をつくっていくのです。

3つのT

「Tune(チューン) In(イン):注意とからだを 子どもに向けて」
「Talk(トーク) More(モア):子どもと たくさん話す」
「Take(テイク) Turns(ターンズ):子どもと 交互に対話する」

保護者にとっての本書の意義

・子どもの可能性と能力を引き出し、脳を育てるうえでは、テレビはむしろ逆効果であり、保護者の「話し言葉の環境」が最も効果的である。

・子どもに何かをしてあげようとする親よりも、子どもがしていることに関心を持つ親が、最も子どもの脳を育てる。(それがチューン・イン)

・2つめのトーク・モアは、0~3歳のどの年齢でも重要です。そのなかでも、とくに大人が赤ちゃんに話しかけることを意識したい時期は、新生児から生後3か月頃の時期だと考えられます。

・乳児期の最初に出会うあたたかな大人の世話が、心と知性と運動の原点をつくり出していくのです。

・脳を育む豊かな言葉とは、子どもの興味関心に合った言葉であり、語彙がバラエティーに富んだ言葉です。提案と促しは、自己制御スキルを促す言葉であり、反対に、命令する、怒鳴る、叱責する言葉は、子どもの言葉の習得を妨げるだけではなく、自己制御の発達も遅れさせることを説明します。

・大人が子どもと豊かな会話をするために提唱しているのは、大人がしていることを言葉にする、子どもがしていることの実況中継をする、「これ」「あれ」などを使わずに、具体的な名詞を話す、子どもの言葉をふくらませるなどです。

・3つめのテイク・ターンズは、子どもとやりとりをして、子ども自身が言葉で表現することを促すことです。サドキンド博士は、子どもの言葉をくりかえすことや、もっと話したくなるように質問をし、子どもの反応をじっくりと待つことが大切であると述べます。

豊かな言語環境のために物的環境と時間の環境の充実を

・サスキンド博士が繰り返し強調するように、まず、子どもをよく見ることから、質の高い関わりは始まります。

活用の留意点 ①:感覚による学びを言葉と同様に尊重すること

・1つは、話しかけることを意識するあまりに、子どもの集中を妨げることがないようにすることです。

活用の留意点 ② 子ども自身のイメージを大切にする

・ 留意点の2つめは、子ども自身が持っているイメージや感じていることを尊重することです。

・ 保育者が子どもと話をするときには、まず、子どもの気持ちや表情をよく見て、子ども自身が話や想像を豊かにすることができるように、話すことが大切だと考えられます 。

活用の留意点 ③: 生活場面と遊び場面とのバランス

・留意点の3つめは、場面に応じて、話をする量を意識するということです。 大人が子どもにどのように話しかけるかは、生活の場面と遊びの場面とで 、質と量とが変わります。 生活場面では大人が主導し、遊び場面では子どもが主導する、そのバランスが大切になります。

活用の留意点 ④: 発達にあった言葉選び

・留意点の4つめは、発達に応じた言葉を選ぶことです。
0歳、1歳は、身体感覚によって環境認識する時期です。 この時期、身体感覚に注意を向ける「どんどん、よいしょよいしょ、 ぎゅっぎゅっ」といった擬音語や擬態語を、トーク・モアとして使うことができます。擬音語や擬態語は、子どもが真似をしやすい音です。

・ダスキンド博士は、「保護者が果たす大切で強力な役割の話」であり、「保護者や主に子どもの世話をする人が生後最初の数年間、主体的な参加者として関わって初めて、子ども達の将来は良くなる」と述べています。